Special Feature / 栗を選ぶ人 vol.1

日本料理は、
栗をどう表現するのか

京都吉兆 総料理長 徳岡邦夫 × エル・ファーム大槻 大槻好之

栗をきっかけに始まった対話は、おいしさだけではなく、土地、時間、そして未来へと広がっていった。

京都・嵐山。

料理人は素材をどう見つめ、
生産者は何を届けようとしているのか。

徳岡 邦夫京都吉兆 総料理長

大槻 好之エル・ファーム大槻

京都・嵐山。
エル・ファーム大槻の栗が京都吉兆へ届くようになって、およそ八年。
料理人は素材をどう見つめ、生産者は何を届けようとしているのか。
栗をきっかけに始まった対話は、おいしさだけではなく、土地、時間、そして未来へと広がっていった。

大槻

京都吉兆さまには、長く栗を使っていただいています。本当にありがとうございます。

徳岡総料理長

もう八年になりますか。早いものですね。

大槻

最初は、徳岡孝二会長にご紹介いただいたのが始まりでした。

徳岡総料理長

父から『一度使ってみたらどうや』と言われましてね。
実際に使ってみると、とても良かった。
それ以来、毎年お願いしています。

大槻

当時は、まだ今のように知られている栗ではありませんでした。
京都吉兆さまに使っていただけたことが、本当に励みになりました。

口へ運んだ瞬間の香り。噛んだときのやわらかさ。食べ終えたあとに残る余韻。
大槻

今は『ぽろたん』を使っていただいています。

徳岡総料理長

最初に名前を聞いたときは印象的でした。
外国の栗かと思いましたが、日本で育成された品種なんですね。

大槻

実は十六品種ほど栽培しています。

徳岡総料理長

そんなにあるんですね。
ほかの品種も試してみたいです。

大槻

品種ごとに味も食感も違います。

徳岡総料理長

料理人は、栗を甘いか甘くないかだけでは見ていません。
香りがあります。
食感があります。
火を入れたときにどう変わるか。
そして、一皿の中でどんな役割を果たすか。
そういうことを考えながら素材を見ています。

大槻

私たちは、どうしても糖度や大きさを気にしてしまいます。

徳岡総料理長

もちろん、それも大切です。
でも、それだけではありません。
口へ運んだ瞬間の香り。
噛んだときのやわらかさ。
食べ終えたあとに残る余韻。
そういうものも、おいしさなんです。

徳岡総料理長

料理の途中で甘いものを食べて『甘くておいしい』と感じると、その次の料理を求める気持ちが弱くなってしまうことがあります。
だから栗ご飯やデザートに使うことが多いですね。

大槻

料理の途中で使うことはありますか。

徳岡総料理長

ありますよ。
生栗を薄くスライスして添えたり。
渋皮ごと薄く切って揚げたり。
食感や香ばしさを生かして、お酒に合わせる料理にすることもあります。

料理の途中で使うことはありますか。
栗峰は、ご飯と一体になる。栗だけが主張せず、ご飯全体に自然となじむ。
大槻

栗峰は、ご飯と一体になります。
栗だけが主張せず、ご飯全体に自然となじむんです。

徳岡総料理長

それは面白いですね。
ご飯だけでなく、野菜や魚、豚肉にも合わせられそうです。

大槻

栗峰は、七立栗を台木として受け継いできた品種です。

徳岡総料理長

栗峰だけでなく、そのもとになっている七立栗も一度食べてみたいですね。

大槻

どんな料理を考えておられますか。

徳岡総料理長

例えば、渋皮を残したまま炭火で焼く。
外は焼き栗のように香ばしく、中は蒸し栗のようにしっとり仕上げる。
それを栗の葉やイガと一緒に籠へ盛って、お客様ご自身で皮をむいて召し上がっていただく。
『こんな栗があるのか』と思っていただけるような一皿にしたいですね。

大槻

栗峰は、そういう料理にも向いているかもしれません。

徳岡総料理長

ええ。
しっとりした食感があるということなので、一度試してみたいですね。

徳岡総料理長

米を選ぶときは、毎年スタッフ全員で食べ比べをします。
色や香り、湯気、食感。
それぞれが感じたことを言葉にして共有します。

大槻

今年は『栗峰』『このみ』『ひかり』『いのり』も、品種ごとに試していただきたいと思っています。

徳岡総料理長

ぜひ、スタッフと一緒に食べ比べて、それぞれの個性を探ってみたいですね。

おいしいものをつくる生産者は、良い意味で頑固なんです。
徳岡総料理長

おいしいものをつくる生産者は、良い意味で頑固なんです。

大槻

そうですか。

徳岡総料理長

昔、農薬を使わない野菜を一人で作り続けていた生産者がおられました。
周りから反対されても、自分の信じたやり方を続けた方です。

その野菜を料理にして食べていただいたら、『野菜ってこんなにおいしくなるんですね』と驚かれて。
そこから、もっとおいしい野菜を作ろうと研究を始められました。

生産者が育て、料理人が料理にし、その料理を生産者が食べる。
そうやって、お互いに育っていくんです。

素晴らしい食材は、未来をつくるものだと思っています。
徳岡総料理長

人を育て、関係をつくることが大切です。
今だけではなく、次の世代、そのまた次の世代へ引き継いでいくことを考えなければなりません。

大槻

私たちが目指しているのは、有名になることではありません。
栗づくりを志す若い人が増えて、この綾部の産地が続いていくことです。

徳岡総料理長

産地が続くことは、本当に大切ですね。
料理人も、生産者の方がおられるから仕事ができます。

素晴らしい食材は、未来をつくるものだと思っています。
地域だけではなく、日本だけでもない。
世界の人に必要とされ、次の世代、そのまた次の世代にも残っていくものになってほしいですね。