Special Feature / 栗を選ぶ人 vol.2

良い栗は、
生産者の仕事がすべて

高級青果卸 四寅 田中 伸郎 × エル・ファーム大槻 大槻好之

一粒の栗を見て、その向こうにある畑やつくり手までを見る。

京都・錦市場。

「選ぶ」という仕事

田中 伸郎高級青果卸 四寅

大槻 好之エル・ファーム大槻

京都・錦市場で、長年にわたり料理人へ青果を届けてきた「四寅」。
田中さんの仕事は、ただ仕入れて、売ることではありません。
栗の状態を見極め、季節を読み、その栗をどの料理人に、どのような用途で届けるのかを考える。

エル・ファーム大槻との付き合いは、約14年前。
まだ販路も十分ではなかった頃、大槻自身が栗を持って錦市場を訪ねたことから始まりました。

「農作物って、作品なんですよ」
長く生産者と料理人の間に立ってきた田中さんの言葉から、「選ぶ」という仕事の奥にあるものを探ります。

問い

エル・ファーム大槻との出会いは、どのようなものだったのでしょうか。

田中

一番最初は、大槻さんが営業に来はったんです。
まだ販路も少なかった頃で、「錦市場で買ってもらえませんか」と、自分で栗を持って来はった。

田中

話を聞くと、無農薬でつくっている、と。
栗を無農薬でつくるって、大変なことなんですよ。
そんな一生懸命やってはるんやったら、ぜひ買いたいなと思いました。

大槻

あれから14年くらいになりますね。
農協へ出せば価格も決められてしまう。それなら自分で売りに行こうと思って、錦市場へ行ったんです。
四寅さんが、最初でした。

田中

でも、最初からたくさん扱えたわけではありません。
僕は「これは絶対おいしい」と思っていたので、この栗が欲しいと言ってくれる料理屋さんの分だけ、少しずつ扱うようになりました。

田中

それが「この栗、おいしいな」と言ってもらえるようになって、少しずつ広がっていったんです。

この栗が欲しいと言ってくれる料理屋さんの分だけ、少しずつ扱うようになりました。
問い

栗を選ぶときには、どのようなところを見るのでしょう。

田中

大きさだけではないんです。
早生、中生、晩生で鬼皮の厚みも違うし、皮の剥きやすさも変わってくる。

田中

たとえば渋皮煮なら、渋皮を傷つけたらあかんでしょう。
だから鬼皮が比較的薄くて、剥きやすいものを選ぶ。

田中

甘露煮ならまた違うし、焼いて使う料理屋さんもあります。
同じ栗でも、お客さんが何に使わはるかによって、こちらで分けることがあるんです。

田中

料理するのは料理人です。
僕らは、その人がどう仕上げたいのかを考えながら栗を渡していく。
生産者と料理人の「中間」にいるのが、僕らの仕事なんでしょうね。

京都・錦市場。料理人へ青果を届けてきた、四寅の店先。
問い

大槻さんの栗を、田中さんはどのように見ていますか。

田中

やっぱり、土はあると思いますね。
長いこと無農薬でやってはるでしょう。
農園へ行ったら分かりますけど、地面がふかふかなんですよ。草もいっぱい生えてる。(笑)

田中

でも、僕はあれがいいんやと思います。
それから燻蒸をしないこと。
薬を使わないという大槻さんの考え方も含めて、栗の味につながっていると思います。

田中

うちは品種別ではなく、混合で送ってもらっています。
だから僕にとっては、品種名よりも、
「大槻さんの栗」
なんです。

田中

どれか一つの品種がおいしいというより、大槻さんのところの栗は、どれを食べてもおいしい。
だから「筑波がおいしい」「岸根がおいしい」ではなく、
「エル・ファーム大槻の栗がおいしい」
ということなんです。

田中

僕は、そこが大事やと思っています。

農作物って、
作品なんですよ
田中

僕はね、
「農作物って、作品なんですよ」
と思っているんです。

田中

つくっている人の人間性が出るんですよ。
野菜でも果物でも、その人がどういう考えで、どう向き合ってつくっているのか。それが農作物に出てくる。

田中

だから大槻さんの人柄も、あの栗に出ていると思います。

田中

これからは品種だけではなく、
「大槻さんがつくった栗だから、おいしい」
ということを、もっと前に出していってもいいんじゃないですか。

田中

農園の名前、生産者の名前そのものが、栗の価値になる。

「量を増やすこと」について

ただ、量を増やせばいいということでもありません。
人間の仕事には限界があります。
そこを超えると、全体のクオリティが下がってしまう。

無農薬で栗をつくるというのは、それだけ手がかかる。
だから無理に増やすのではなく、きちんと目が届く範囲で、今の品質を守りながらつくってもらう。
僕は、それが一番いいと思っています。

大槻 頑張らなあかんね。(笑)
田中 もっと頑張ってもらわないと。(笑)

生産者が栗を育てる。
目利きが、その栗を選ぶ。
そして料理人が、一皿の料理として表現する。

約14年前、田中さんがまだ知られていなかった大槻の栗を選んだのは、有名な品種だったからでも、立派なブランドがあったからでもありません。

無農薬で栗を育てる大槻の姿勢に触れ、
「この栗はおいしい」と感じたことから始まりました。

そして長い付き合いの中で、田中さんがたどり着いたのは、品種を超えた一つの評価でした。

「大槻さんの栗だから、おいしい。」

栗を見ることは、畑を見ること。
畑を見ることは、つくり手を見ること。

「農作物は作品」
その言葉には、生産者と料理人の間に立ち続けてきた田中さんだからこその「選ぶ」という仕事の本質が表れています。