Special Feature / 栗を選ぶ人 vol.3

焼く

一粒の栗の、
いちばんいいところを引き出す

焼き栗専門店 くりはち 代表 大髙広行 × エル・ファーム大槻 大槻好之

東京・世田谷。

一粒の栗を、
焼くということ

大髙 広行焼き栗専門店 くりはち

大槻 好之エル・ファーム大槻

東京・世田谷で、国産栗だけを使った焼き栗をつくり続けてきた「くりはち」。全国各地の産地から栗を仕入れ、一粒一粒の状態を見ながら、その栗に合った焼き方を探る。

大髙広行さんが焼き栗の仕事を始めたのは、今から約23年前。一方、京都・綾部で長年、栗と向き合ってきたエル・ファーム大槻の大槻好之。

栗を「育てる人」と「焼く人」。二人が栗について語り始めると、同じ一粒を見ていても、それぞれの仕事から見えているものが違う。

甘さ。香り。水分。食感。そして、品種によって異なる個性。畑でしか分からないことがある。そして、焼いて初めて分かることがある。

一粒の栗の、いちばんいいところを引き出すために。二人の対話から、「育てる」と「焼く」の間にあるものを探った。

大髙

焼き栗の仕事を始めるきっかけには、母親の一言がありました。焼き栗といえば中国産が多かった時代に、「だったら国産でやってみようか」と思ったんです。

大髙

最初は百貨店での販売からでした。国産栗だけを使って、焼き栗一本で続けてきて、気づけば23年になります。

大槻

焼く人がいることで、栗の届き方も変わりますね。畑で育てた栗が、焼かれて、食べる人に渡っていく。

国産の栗だけを焼く。
その仕事は、小さな焼き栗機の前から始まった。
大髙

同じ栗でも、毎年違います。産地が違えば味も違うし、品種が違えば水分量や食感、香りも違う。

大槻

畑では、品種ごとの実のつき方や育ち方を見ています。早く熟すもの、じっくり育つもの、それぞれに性格があります。

大髙

焼く側は、火を入れたときの違いを見ます。大槻さんの栗は、その品種差がよく出るんです。だから、焼くタイミングも一律にはできません。

甘ければいい、
というものではないんです。
大髙

焼き栗は、温度や湿度の影響を受けます。だから、うちは屋外イベントにはあまり出ないようにしています。条件が変わると、同じ焼き方では仕上がらないからです。

大髙

焼き時間は、およそ10分。長く焼けば、たしかに甘く感じることはあります。でも焼きすぎると、栗が持っている香りや風味が飛んでしまう。

大髙

和栗のおいしさは、甘さだけではありません。香り、食感、ほくっとした余韻。その栗らしさを残して焼くことが大事なんです。

香りの話

香りを残して、焼く

大髙さんと大槻さんの話を聞いていると、二人の仕事に共通する考え方が見えてくる。

それは、「栗そのもの」を大切にするということ。

育てる人は、栗が本来持っている力を生かそうとする。焼く人は、その栗が持っている香りや風味を失わないように火を入れる。

焼くとは、何かを加える仕事ではない。栗がもともと持っているものを、火で引き出していく仕事。
大髙

栗は、焼くことで隠れていたものまで出てきます。香りもそうですし、燻蒸された栗かどうかも、焼くと違いが分かることがあります。

大髙

焼く仕事は、何かを足す仕事ではありません。その栗が持っているものを、できるだけ失わずに出していく。

つくる人と、焼く人

大槻さんの栗は、まろやかで、当たり外れが少ない。虫食いも少なく、選別の精度が高い。

収穫後までが、生産者の仕事。選別や保管まで含めて、その品質は焼く人のところへつながっていく。

それは焼く側には、ちゃんと伝わっていますよ。

大髙

焼く側からすると、届いた栗の状態がとても大事です。虫食いが少ないこと、粒の状態がそろっていること、選別されていること。その積み重ねで、焼き上がりが変わります。

大髙

大槻さんの栗は、まろやかさがあるし、外れが少ない。生産者の仕事が、こちらにちゃんと届いている感じがします。

大髙

大槻さんの栗は、品種ごとの違いが大きいんです。水分、食感、香り。その違いが、焼いたときにはっきり出てくる。

大髙

なかでも「このみ」は好きですね。品種ごとに個性があるから、それをどう焼くかを考える。一律に焼いてしまうと、その個性が消えてしまうんです。

店先に並ぶ焼き栗。
品種や年ごとの違いを、焼く人の手が受けとめる。
大槻

農薬を使わずに栗を育てることを、先代から引き継ぎ35年以上続けています。自然と共存しながら、できるだけ栗が本来持っている力を生かしたいと思っています。

大髙

焼くと、そういう違いは分かります。栗そのものを信頼できるかどうか。それは、焼く人にとってとても大きい。

大髙

出荷して終わりではなく、その先でどう焼かれ、どう食べられるかまで品質はつながっています。だから、大きくすることだけが答えではないと思うんです。

大槻

自分の目が届く範囲で、品質を守り続ける。そこは、つくる側としても大事にしています。

栗を育てる大槻好之と、栗を焼く大髙広行さん。

二人の仕事は、一見まったく違う。

大槻さんは、土をつくり、木を育て、実りを待つ。
収穫した栗を選別し、保存し、できるだけいい状態で次の人へ渡す。

大髙さんは、その栗を受け取り、一粒一粒の状態を見る。
水分を感じ、品種を知り、火を入れる時間を決める。

大槻

僕らは一年かけて栗をつくります。
でも、その栗をどう生かしてもらうかは、僕らだけではできません。

大髙

僕らも同じです。
栗そのものが良くなければ、焼くだけでおいしくすることはできない。

大髙

長く焼けば甘くすることはできます。
でも、僕は甘さだけを出したいわけではないんです。
その栗が持っている香りや風味を、できるだけ残して焼きたい。

大槻

それぞれの栗が持っているものを大事にする、ということですね。

大髙

そうですね。
何かを足すのではなく、その栗の一番いいところを引き出す。
それが僕の仕事だと思っています。

一粒の栗には、生産者だけでは語ることのできない物語がある。

育てる人から、焼く人へ。
そして、食べる人へ。

人から人へと手渡される中で、その一粒が持っている個性は磨かれ、最後に「おいしい」という一瞬へとつながっていく。

一粒の栗の、
いちばんいいところを引き出す。

それが、焼く人の仕事。